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東京高等裁判所 昭和36年(う)1040号 判決 1961年11月08日

被告人 長谷川ウメ

主文

本件控訴を棄却する。

理由

先ず、所論は、本件における起訴状の公訴事実の記載は、刑事訴訟法第二百五十六条第二項の要件を充足せず、訴因たる事実を特定していないから、かかる公訴事実に基づき有罪を認定した原判決は刑事訴訟法第三百三十八条第四号に違反し、公訴棄却を言い渡すべきに拘らず公訴を受理して有罪の判決を言い渡した違法があるというのである。

よつて、所論の本件起訴状(昭和三十五年十二月六日付)についてこれをみるに、その窃取された賍物の所有者については、その氏名のみが記載されており、その住居までは記載されていないが、各所有者の住居は公判の審理過程においておのずから分明になつており他の同名異人と混同する惧れはなく、また、賍物については、着物等何点、その時価何円と記載されているに過ぎないが、その後の審理過程において賍物の種類は大部分が衣類等繊維製品であることが明らかにされているのであつて、この点に関する起訴状の記載は結局誤りではなく、また、賍物の故買の価格も、所論の如く一回三万円ないし五万円に記載されているに相違ないが、賍物故買の訴因を記載するにあたつては、その賍物の取引が有償であることを示せば足り、必ずしも各賍物毎にその故買の価格を明示し、それが相当価格であるか否かを分明ならしめる必要はないのであつて、以上の各記載と、その余の犯罪の日時、場所等の記載により、罪となるべき事実はおのずから特定されていると認め得るから、本件訴因はその特定を欠くが故に刑事訴訟法第二百五十六条第二項に違反した違法があるとはいい得ず、従つて原判決には不法に公訴を受理した違法があるということもできないのである。

(その余の判決理由は省略する。)

(裁判官 三宅富士郎 東亮明 井波司郎)

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